建築こぼれ話 第7話~熱意は川をも渡る~

お休みを利用して房総のゲストハウスを訪ねた。
房総の山中にある「ポツンと一軒家」な宿だ。

ツリーハウスルームやプライベート大風呂を持ち、2024年新築という、それだけでも魅力的なのだが。


この宿に魅かれたのには、実は大きな別の理由がある。
まずはこちらの地図を見てほしい。
    <Googleマップより出典>https://maps.app.goo.gl/AN6tRjZcKii5g88L6

そう、宿の周りに道がないのだ。
道路は川を挟んで反対側(写真左側)にあるだけ。
そして、橋すらない。

「えっ⁉どうやって行くの?」
と興味に駆られ、やってきた。

車を停め、宿へ向かって踏み出す。
すると、その正体が目の前に。

現れた、大きな滝。

川を、歩いて、渡る。

まじか…予習してきたとはいえ、一歩目には勇気がいる。

現れたのは「川」。
橋も飛び石もなく、長靴か素足でじゃぶじゃぶ渡るのだ。
コケでツルツル。滑ってヤバい。

裏手は、広大な、休耕田。
崖に囲まれ、道はない。耕すのもトラクターも入らないから、初めは人力…

川風を、感じる、浮遊する。

2階から眺めると、川に阻まれ、橋もない。「もう朝まで帰れない…」ミステリーばりのワクドキ♡

自噴する、清冽な、地下水。

だから圃場があり生活がある。かすかな硫黄感も、置き水するとなんとも甘露な水に。


さて。
これは建築ブログ。話したかったのは
「こんな建物どうやって建てたの?」ということ。


大きく思い窓や家具を吊り下げるクレーンも入らなければ、土や資材を運ぶトラックも入れない。
そんなことができるんだろうか。


常識的に考えても、ちょっと想像できない。
”きっと山側に裏道があるに違いない。”
と思っていたが、さっそく裏切られた。
「道、ないですよ」とご主人のカズさん。

そう語るカズさんは、この建築主、その人である。

聞けば、無謀な試みゆえに、建築プロジェクトは途中で頓挫した。
途方に暮れ、天を仰いだカズさんに、一条の光が。


『そんなら俺がやってやろうじゃないか!』
話しを聞いた工務店の若旦那が、漢気ひとつで引き受けてくれた。
「誰も無理だ」と言われたこの建築を、だ。
しかも、当の若旦那も初めは完成する自信はなかったらしい。
が、”為せば成る!”と。

資材はすべて手運び。
柱を一本一本、川を渡って運び込む。
途方もない量と重みを、肩に担いで。
誰もやりたがらないし、やれない。

それにね。
若旦那ひとり奮起しても、成し得ない。
だって家は大工一人では建たないもの。

基礎、板金、サッシ、クロス、左官、設備、電気…
どれだけの職人が関わったろう。
どれだけの苦労がかかったろう。
完成は8月というから、灼熱の山の中で。

そんな過酷な条件を乗り越えて建ったこの建築。
その原動力は、ご主人の熱意。
それが、それだけが、
人を動かしたのだろう。

この土地に導かれ一目惚れ。
この場所に建てようと決め、
移り住んで構想から、10余年。

そこまでして実現しようとする
その熱意には、並々ならぬ温度感がある。

だからなのか。
この空間に身を置くと、
スーッと心が鎮まる。
そしてポッと温かくなる。

生まれた熱意は、必ず伝わる。
カズさんから若旦那
若旦那から職人たち
職人たちから建築へと。
そして建築から、私たちへ。

「無理」と言って諦めれば、そこまで。
「できる」いや、「やるんだ」と決意した。

オクツP

タイトルとURLをコピーしました